コンサルタントの水田です。
あなたは「デジタル薬」というものの存在をご存じですか?
この発想はこれまでの薬の発想を覆し、まったく新たな産業を創出させるきっかけになる話です。
通常、薬といえばお医者さんが処方してくれた病気を改善させる成分が入っている固形物や粉末状のもの、また液状のものを想像させると思います。
しかし、このデジタル薬というのはそのような既成概念を全く覆し、情報や映像によって病気の治療や予防を行うという取り組みなのです。
飲まない薬「デジタル薬」とは?
代表的なものとしてキュア・アップという企業が開発しているスマホアプリを使った禁煙治療。
この治療方法は禁煙を行っている患者に対して、昼食を食べ終わる時間や禁煙治療開始から節目となる3か月目、また位置情報からいつもタバコを吸っていた場所に近づくとスマホ画面にメッセージが届くという仕掛けです。
どうしても我慢できなくなりつつある患者に、「今月いっぱい我慢できれば後は楽になる」というような励ましのメッセージが自動的に発信されるのです。
この治療法は、禁煙外来で5割といわれている継続率を上回り、64%が継続するという治験が出ています。
禁煙治療のノウハウを搭載したAIが相談に乗ることによって、これまで以上の禁煙を実現させているのです。
こういったデジタル薬という取り組みは他にも実施されており、子供の発達障害を治療するようなアプリも登場しています。
注意欠陥多動性障害(ADHD)と呼ばれる子供の発達障害にゲームを通して脳に刺激を与えて治療するというもの。
当然のことながらゲームなので、子供は夢中に取り組みます。
そして夢中に取り組んでいる間に、脳に刺激を与え、いつの間にか発達障害が改善されているという代物なのです。
このような取り組みは医療業界の各所で動き出しつつあり、アステラス製薬などはバンダイナムコと組み、「デジタル薬」を開発する動きが出てきています。
これまでの製薬業界の発想が全く変わり、製薬業界は情報産業に新たな機会を見出そうとしているのです。
一歩先を読む経営ができていますか?
このようにスマホ、SNSという情報の仕組みはあらゆる業界に影響を与えており、これからの環境の変化を捉えるにあたり、絶対に外してはならない存在になっていると思います。
医療業界の先を見越した経営というのは素晴らしいものなのですが、あなたの会社は先を見越した経営ができているでしょうか?
これまで多くの企業に営業の支援を行ったり、セミナーや研修を通して指導をしてきましたが、先見性を持った経営ができている企業というのはそう多くはありません。
逆に、とりわけ営業組織には先見性というより短期的な志向が文化として根付いている企業が多いように思えます。
私も過去の営業パーソン時代に所属していた会社は、完全に短期志向でした。
その日1日をどうするのか、という数字の追いかけ方があたり前の文化で、来る日も来る日も「今日の数字は?」という短期的なマネジメントを繰り返していたのです。
「今日の数字は?」という短期志向にはメリットとデメリットがあります。
メリットとしては、目標数字を1日に細分化することにより切迫感が高まります。
1日未達になると、その数字が翌日に借金として積み上がり、そして1日あたりの目標が未達になればなるほど、その借金が積み増され切迫感が沸いてきます。切迫感が高まれば、行動スピードが上がり通常よりもパフォーマンスが上がるのです。
短期志向が営業組織を疲弊させる?!
その一方、デメリットとしては2つあり、一つは発想が既存の枠組みから出ないということです。
「今日の数字をどうする?」と言われた場合、新たな発想は生まれづらく「今のやり方でとにかく頑張る」という発想にしかなりません。
また、新たな市場、新たな提案の切り口という発想にもなりづらく、とりあえず目の前の顧客、話しやすい顧客に、いつものトークを繰り返しがちになります。
そしてもう一つは社員が疲弊することです。
短期的な数字の追いかけは、時として負のスパイラルに陥りやすくなります。
今日の数字が未達に終わり、未達の日が積み重なってくると徐々に経営者やマネジャーなど管理する側の管理が強くなってきます。
管理が強くなってくると、更に営業社員の視野が狭くなり、時には強引な交渉を行い、顧客からの信頼を失墜するような行動を起こすようになります。
そしてその行動が繰り返されると顧客離れが起き、更に売上があがりにくい状態になります。
売上が上がらないので、また上司の詰めがきつくなり、そしてなりふり構わない強引な交渉を行うという負のスパイラルに陥るのです。
また、それだけではありません。
あまり短期志向になるとそのプレッシャーに耐えきることができず、多くの社員が退職する結果になることは簡単に想像がつくと思います。
私が所属した前職の企業では、うなぎ上りに業績を上げていましたが、それは採用市場が味方していたということも業績向上の一端を担っていたと思います。
大量の退職を前提とした採用活動で、年間に500~600人もの新卒を採用する。
大量に採用していく中で、業績を上げることができる一部の人間だけが残ればよい。
できない人間はやめていけば良い。そして使うだけ使ったら人を入れ替える。
そんなビジネスのやり方がまかり通っていたのは、その時代が「超」がつくほどの就職氷河期だったからでしょう。
しかし、今はどうでしょうか?
就職氷河期どころか完全に採用は売り手市場。
人材を確保するために多くの企業が躍起になり、採用説明会を繰り返しているような状態です。
この状態は労働人口が減っていく日本では止めることができず、長らくこのような状態が続く可能性があります。
このような時代に積極採用を前提としたビジネスモデルの企業はどうなるのでしょうか?
おそらく採用コストは肥大化し、収益性は極めて低くなっていきます。
また、収益性が低くなっていくだけならまだマシで、時として人手不足で事業を継続すること自体が難しくなる。
そんなことが十分に考えられる時代になったのです。
短期志向からの脱却するには?
短期志向はまずいと分かっていても、なかなかそこから脱却することはできない。
そんな営業組織はどうすれば良いのでしょうか?
残念ながら特効薬はありません。
それこそデジタル薬のように、あなたの思考を常にメンテナンスするようなメッセージを発信する治療法が必要なのかもしれません。
短期的に数字を追いかけるのを抑制するようなマネジメント方法・・・
それこそ予材管理のように白地といったマネジメントの発想を取り入れ、常に「先のことを考えよ!」といった短期志向を矯正するトレーニングが必要なのかもしれません。
あなたの会社はどうですか?
短期志向ですか?それとも中長期的な志向を持ち合わせていますか?
もし営業組織を振り返って前者になっているようなら、今後の環境変化に対応できない可能性が高いです。
経営の舵を大きく切れなくなるような大打撃を受ける前に、今後の環境変化を見据えた経営に意識を向けることを強くお勧めします。