コンサルタントの水田です。
先日の日経新聞で職場環境を良くする取り組みとしてZOZOがピックアップされていました。
その内容は「幕張手当」。
幕張に本社を置くZOZO。
その本社のすぐ近くに住むと住宅手当が出るというものでした。
これは社員同士がランチや立ち話でも、近所の名店や有名なお医者さんの話で盛り上がることができ、一種の組織文化を形成する上で有効な施策です。
この取り組みを読んだ際に、「さすが最先端のIT企業」と思いましたが、実はこの取り組みについてはもうずいぶん前に実施している企業があったのです。
その企業というのはどこかというと、それはサイバーエージェントです。
サイバーエージェントは2005年当時に「2駅ルール」という住宅補助制度を取り扱っており、これも本社のある渋谷から2駅以内に住むと住宅補助が付いてくるという福利厚生制度です。
この渋谷近辺に住んでもらう意図としては、渋谷という地域はIT企業が集積しているエリアであり、社員に最先端の情報に触れさせるための取り組みでした。
そしてこの2005年前後というのは、ちょうどサイバーエージェントが変革期にあった年です。
インターネットの総合企業となるために中期経営計画を作成し、これまでの営業会社からの変革を図った非常に印象深い年なのです。
営業会社だったサイバーエージェント
サイバーエージェントは2000年に、わずか26歳の社長が創業してたった2年で上場を果たし、株主から大きな期待をかけられている企業でした。
当時のサイバーエージェントは広告代理店であり、完全に営業会社。
評価の仕組みも四半期俸制を取り入れており、3か月ごとに目標を設定し、その達成度合いで給与が決まっていたのです。
評価は絶対評価でシビアに評価が決まったため、社員間では常に緊張感のある空気が漂っていたといいます。
しかし、そんな短期的な成果を目標として経営していた当社は結果として3期連続の赤字。
上場以来、株価の低迷と赤字で株主からかなりの批判を浴びていたのです。
サイバーエージェントの転換点
サイバーエージェントは3期連続の赤字を何とか解消すべく2003年に中期経営計画を策定し、事業の舵を大きく切りました。
これまでの営業代行会社からインターネット総合会社への変革を図っていったのです。
当時、ライブドアがブログサービスを提供して以降、ブログの利用者は急拡大し、ブログ関連市場は数十億円市場から1000億円市場にまで伸びると予想されていました。
ここでサイバーエージェントはアメーバブログをスタート。
これまでの広告代理店事業から自社メディアを持ち、ブログのユーザー数を拡大することでブログの広告収入、そしてブログの集客力を活かしたグループの持つメディア全体の活性化を図ったのです。
この大きな事業転換にあたり必要となる人材は大きく変わり、これまでは即戦力となる営業パーソンを必要としていた事業から、新卒のエンジニアを採用する方向に転換しました。
そして組織構造や人員配置が大きく変わっていく中、人事制度を変える役目に意外な人物を抜擢したのです。
その人物とは当時、営業統括部長を務めていた曽山氏。
営業の最高責任者の曽山氏が人事本部長に抜擢されました。
営業を必要としていた組織からエンジニアを中心とした組織に変革すると、当然ながら変更する人事制度に最も物言う立場になりやすい人物。(営業部を守るためにも)
その最も抵抗勢力となりやすい営業部の最高責任者を人事の最高責任者とすることで、変革中の人事制度を本気で運用させようとしたのです。
新たな戦略を推進するコツ
中期経営計画などで新たな戦略を遂行する上で、誰がネックとなるのかという視点は有効です。
サイバーエージェントが最も抵抗勢力となりやすい営業統括部長を人事本部長にしたように、抵抗勢力となりやすい人物に変革のプロジェクトを任せて推進していくと、物事がスムーズに運んでいく可能性があります。
差し詰め、営業組織を改革する上で最も抵抗勢力となりやすいのは、営業部長などではなく実際に営業や営業マネジメントを遂行している人物が該当するかもしれません。
営業部長は実際に自分自身が実行するわけではないので、実務に携わるとなれば営業マネジャーあたりになるのでしょうか。(但し、企業規模によっては営業部長が実際のマネジメントを賄っていた場合は、営業部長が対象になります)
最も抵抗勢力となり得る人物に、新戦略を落とし込むプロジェクトを任せる。
その人物に新戦略を遂行する責任と権限を与えるのです。
必ず組織には利害関係が発生し、既存のやり方を壊されると最も困る人物が存在すると思います。
その人物は、新しい方法論が正しい、正しくないにかかわらず、既存のやり方を壊され自分の業務が面倒になることが嫌なのです。
そういった人物を説得してもなかなかうんとは言わないでしょう。
それであれば、最も変更されることに困る人物に、あえて変更することへの権限責任を与え、そして変更することへのインセンティブ(評価)を与えるのです。
これは新たな戦略を遂行する上で、非常にうまいやり方ではないでしょうか?
戦略遂行にはソフトだけでなくハードも
ここで気を付けておきたいのが、いくらネックとなる人物やネックとなる対象者たちに権限責任を与えて変えていったとしても組織が大きくなると、全体を思惑通りに変えていけるかどうかは分かりません。(サイバーエージェントも組織を変えていくためにありとあらゆる施策を打っています)
組織全体を変えていくためにも、ネックとなる人物をリーダーとしながら、ハード面を固めていく。
それは人事制度を変えていくことになるのか、それとも組織構造を変えていくのか。
そんなに大きな変換ではなく、営業のマネジメントツールなどの仕組みを変えていくのか。
組織のこれまでの文化を変えていくことは並大抵のことではありません。
マッキンゼーの7Sでも提唱されているように、組織変革にはハードとソフトの両面のアプローチが必要です。
あなたが考えた中期経営計画・・・それがただの紙くずにならないようにしたいのであれば、推進者をうまく選定するといった方法を取りながらも、ハード面も視野に入れた施策が打てているのかも検証する必要があるのです。