予材管理の現場から 予材管理ブログ

お客様にアプローチし続けるか、やめるべきか

コンサルタントの酒井です。

サンクコストとは

「サンクコスト」という言葉をご存知でしょうか?

サンクコストは、英語で「Sunk Cost」。

Sunkとは沈むという意味であり、沈んでしまって取り返すことのできない状態であること。
Costとは費用という意味であり、資金や時間、労力などの費用を指します。

つまり、サンクコストとは、「すでに支払ってしまって、どうやっても取り返すことのできない費用や過去の時間」のことを言います。

サンクコストは、どうやっても取り戻せないため、意思決定の際には無視すべきもの。

それまでに費やした資金や時間、労力を惜しんで事業を継続すると、損失が拡大するおそれがあるため、意思決定に際しては、サンクコストは無視することが合理的とされています。

「もったいない」と思い、サンクコストを意思決定の要素として取り入れてしまうと、誤った判断をしがちです。

しかしながら、せっかく支出(投資)したのだから、その分は回収したくなるのが人間というもの。

「せっかく◯◯なのに」と、サンクコストを無視することができなくなってしまいがちなのです。この心理をサンクコスト効果と言います。

 

サンクコストの例

サンクコストの説明でよく扱われるのが「つまらない映画」の例です。

面白そうだと期待して、入場料を1800円支払って、映画館でその作品を観始めたものの、開始30分でつまらない作品だと判明しました。この映画はこのあと2時間続きます。この映画を観続けるか?それとも途中退出するか?どちらが合理的な選択でしょうか?

映画代1,800円と30分という時間はどうやっても取り戻すことができないコスト(=サンクコスト)です。

合理的に考えるのであれば、このサンクコストは無視し、今すぐ映画館を出て、残りの2時間を有意義に過ごすべきです。

しかし、実際は「映画代1,800円はすでに支払っているし、途中まで観ちゃったし、なんとかして元を取らなければ」と考えてしまう人が多いものです。

また、ギャンブルはサンクコストを無視できない典型です。

負けが込んでいるにも関わらず、それまでにつぎ込んだ費用と時間は回収したいと思うものです。

「勇気ある撤退」ができず、さらに費用をつぎ込んだ結果、大損してしまうというのは、サンクコストを無視できなかった典型と言えます。

このサンクコスト効果は、営業パーソンの行動にもよく表れます。

例えば、長期間にわたり大型案件の商談を続けてきた営業パーソンを思い浮かべてください。

ある日、商談中のお客様から、「他社製品を選ぶ方向で話が進んでいる」と告げられてしまいました。

この時点で、契約になる可能性はありません。それにも関わらず、アプローチを続けてしまう営業パーソンがいるのです。

その商談にかけてきた時間と労力が無駄になることを認めたくないというサンクコスト効果が働いているからです。

サンクコスト効果により正常な判断ができないと、時間を浪費してしまうことになります。

目標達成は最適な行動配分の結果ですから、可能性のないお客様に膨大な時間を突っ込みすぎてしまうということは、目標未達成の原因となります。

それを防ぐためにはサンクコストに惑わされず、冷静な判断をしなければなりません。

では、目標達成のために、この冷静な判断をするのにはどうしたらいいでしょうか?

ここで予材管理の出番です。

 

予材管理の「選定理由」

予材管理には、「選定理由」という項目があります。

この選定理由は、お客様の視点で書くものです。「お客様が当社のサービスを選ぶ理由は何だろうか」という視点です。

注意すべきは、「私(営業)が、このお客様を選ぶ理由」では書かないということです。

予材管理は、予定材料「状態」管理ですから、予材の状態を組織共通の「客観的なものさし」に基づいて管理するものです。

この「選定理由」をもしお客様の視点で書こうとしても書けないということは、お客様の課題やニーズを正しく把握できていないまま、売り込みをしていると言えます。

「私はこのお客様に売りたいから」という主観となってしまっているわけです。

サンクコスト効果で、ただそれまで費やしてきた時間や労力を回収したいという主観でアプローチし続けている可能性があります。

選定理由を正しくお客様視点で書くことで、客観的な視点を持てる効果があります。

つまり、それまで費やしてきた時間や労力を回収したいという主観(=サンクコスト効果)を取り除き、客観的かつ冷静に予材状態を把握し、行動配分していく手助けとなるものなのです。

お客様視点で選定理由を書き、予材を管理することは、結果的に未来の時間と労力を無駄にしないことに繋がるのです。