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早期離職の原因と対策~若手社員が定着しない…を防ぐ2つの切り口

コンサルタントの酒井です。

有効求人倍率は、43年ぶりの高水準。新卒・中途ともに“超売り手市場”と言われています。

そんな難しい採用環境の中、手間もコストもかけて、やっとの思いで採用できた人財。
戦力となって活躍してほしいと思うのは当然のことです。

しかし、今年になってコンサルティングに入った会社は真逆のことが起こっていました。

せっかく採用できた人財が数ヶ月で辞めてしまうのです。3年以内の離職率が5割超え。

人財を代謝させることを前提にした採用方針を採っているわけではないにも関わらず、営業の離職率が高く、採用も追いつかない状況となっているのです。

このブログをお読みのあなたの会社はいかがでしょうか?

早期離職がもたらす負のスパイラル

早期離職は採用経費の損失だけでなく、採用や育成を担当した人事や現場社員の人件費、研修費などを含めると、その損失は軽くありません。

入社して3年の若手社員が退職した場合、退職者一人あたりの損失はおよそ1,500万円とも言われています。

損失は財務的な損失に留まりません。

離職率が高い会社は、採用弱者になる恐れがあります。
なぜなら、離職率は求職者が企業を選ぶ指針のひとつになっているからです。

いまや離職率は、求人募集時に公表すべきデータのひとつです。

つまり、求職者は離職率の数字から、社員がどれだけ定着しているかを確認し、応募するかの判断をしています。

離職率の高い会社は、採用も難しくなってしまうのです。

採用できない→妥協して採用する→離職する→採用できないといった負のスパイラルへの突入はなんとしても防がねばなりません。
 

若手社員の早期離職の原因は大きく2つ

ではそもそも、なぜ早期離職してしまうのでしょうか?

データに基づき、早期離職の原因を分類すると、大きく入社前の問題と入社後の問題の2つに分類できます。

私は企業の現場に入り、目標を絶対達成させるコンサルタントです。
入り口の採用コンサルティングから入社後の人財育成、定着、戦力化、および上長にあたるマネジャーの指導を行なっています。
その経験も踏まえて現場で起こっているリアルをお伝えします。
 

早期離職の原因1 入社前の問題~リアリティ・ショック

入社前の問題とは、つまり採用時点の問題です。

採用市場が厳しさを増す中、企業側は優秀な人財に少しでも興味を示してもらおうと取り組んでいます。

それが、時にに現実以上に自社をよく見せようとしてしまうことがあります。
その結果、生じるのがイメージとのギャップです。

営業パーソンがお客様から受注をいただきたい気持ちから、話を盛ってしまう。
構造はこれに似ています。営業の場合ですと、購入後にお客様から「イメージと違う」とクレームが出るのは容易に想像ができます。

採用でも同様のことが発生しています。

株式会社パーソル総合研究所/パーソルキャリア株式会社が2019年2月22~25日にインターネットを通じて、入社3年以内の大卒社会人600人と入社3年以内に離職した200人に行なった調査があります。
(参考:https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/reality-shock.html

この調査によると、入社前に抱いていたイメージと入社後の実態に差がある「リアリティ・ショック」を感じていると答えたのは76.6%に達しています。

具体的にイメージと違っていたところは、1位が「給料・報酬の高さ」で37.4%と最も多く、「昇進・昇格のスピード」31.9%、「仕事で与えられる裁量の程度」31.5%、「仕事から得られる達成感」31.3%、「働きやすさ(残業・休日など)30.5%、「仕事のやりがい」30%と、仕事内容に関するギャップが目立ちます。

リアリティ・ショックの大きさにより、会社に対する満足度が大きく異なることもわかっています。

イメージと実態の差が小さい人は入社時から3年目までの満足度が70%程度であまり変わらないのに対して、差が大きい人は内定承諾直後に約70%あった満足度が社会人1年目で12%まで急落しています。

リアリティ・ショックが与える影響は大きいと言えるでしょう。
 

入社前の対策は「伝わったか」の確認

そこで入社前に気を付けるべきこととして覚えておいていただきたいのは、「伝える」と「伝わる」は異なるものという前提に立ってコミュニケーションをとることです。

「理解=言葉×体験」です。

同じ言葉でも、これまでの体験により受け手の解釈や感情は異なるものです。

たとえば、「癌が奇跡的に治って、今では職場復帰している」という言葉を聞いて、あなたはどんな感情を抱くでしょうか?
「すごい、おめでたい」とポジティブに捉える人がいる一方、ネガティブに捉える人もいます。それは癌で近親者を亡くした過去の体験のある人です。

このように、同じ言葉でも過去の体験により受け手の解釈や受ける感情は異なるのです。

話を元に戻しますが、入社前の人は、その会社で働いた体験がない人です。体験がないからこそ、「伝えた」ことが「伝わった」というには注意が必要です。

とくに私が採用面接時に使えるテクニックとして、お勧めしているのは「パラフレージング」です。
パラフレージングとは、「相手の話した事を、違う言い回しで返すこと」。つまり、こちらが伝えたことを求職者に話してもらうことで、正しく伝わったかを確認することができます。
 

早期離職の原因2 入社後の問題~キャリア成長が望めない

では、「リアリティ・ショック」がなければ、離職しないかというとそうではありません。
入社後の問題により離職を助長してしまう場合があります。

Vorkers働きがい研究所がまとめた平成生まれの退職理由ランキングから入社3年以内に退職した若手社員の退職理由を知ることができます。

この調査によると、退職理由で最も多かったのは

1位 キャリア成長が望めない 25.5%
2位 残業・拘束時間の長さ 24.4%
3位 仕事内容とのミスマッチ 19.8%

となっています。

「キャリア成長が望めない」の25.5%で、全体のおよそ1/4を占めています。
つまり今の会社でのキャリア成長に限界を感じ、新天地を求めているのです。

組織行動研究所が行った4年目以降に新卒入社した企業を辞めた経験を持つ25~32歳の男女515人への退職理由に関する調査でも同様の結果が出ています。
 

入社後の対策は3つの切り口で「ありたい姿」を把握する

これらの調査結果から浮かび上がる入社後の問題は、会社や上司が社員のありたい姿を把握していないことです。

アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、組織を成立させるための条件として、3つの要素がそろっている必要があると定義しました。

1.共通の目的をもっていること(組織目的)
2.1についてお互いに協力する意思をもっていること(貢献意欲)
3.1を得るために円滑なコミュニケーションが取れること(情報共有)

この組織の3要素は、単なる集団ではなく、メンバーが組織の共通目的に向かって互い協力し、活発にコミュニケーションをとっている状態が組織のあるべき姿であることを示しています。

この3要素は、一人の社員を考えるうえでも同様に当てはめることができます。

会社やマネジメント側が、

1.一人の社員の目的を正しく理解して、共有の目的となっていること(共通目的)
2.1について会社やマネジメント側が協力する意思をもっていること(貢献意欲)
3.1を得るために円滑なコミュニケーションが取れること(情報共有)

ということです。

Q.あなたの部下の目的はなんですか?
Q.共通の目的実現のために、協力する意思をもっていますか?
Q.円滑なコミュニケーションが取れていますか?

これらの質問に対して、「YES」と回答できたら大丈夫です。

一方、1つでも「NO」という状態であれば、部下を正しく認識し、マネジメントできているとは言えません。

この場合、急に部下から「キャリア成長が望めない」という理由で退職を申し出されても、おかしくありません。

マネジメントの基本は、あるべき姿と現状とのギャップを正しく捉えること。そして必要に応じて、ギャップを埋めるための打ち手を講じることです。

ぜひ社員のありたい姿と現状とのギャップを把握することからはじめてみてはいかがでしょうか。